「天使と悪魔」の虚と実

反物質から「無尽蔵のエネルギー」を取り出せるという表現だけは
どうかと思いました。


物理学者とともに読む 「天使と悪魔」の虚と実 50のポイント

2009年3月19日追記:3月18日に、本件について記者会見をしました。その意図について若干補足説明をさせていただきます。

「天使と悪魔」への反物質の登場は、CERNで実際に行われている反物質研究に興味を持っていただく良いチャンスである一方「科学者達がこっそりと危険な研究をしている」という誤解を生む懸念もあります。

エンターテイメントの科学性を論じるのは「やぼ」と承知していますが、原作冒頭から「事実」として反物質のことが記されており、一般の方々には、虚 実の境目が見分けにくいと考え、天使と悪魔に登場する反物質の虚実皮膜を絵解きし、我々日本グループも深く関わっているこの研究の現状についてお伝えした かったのです。ちなみに、私自身は(CERNが出てくることもあってなおさらのこと)原作を楽しく読みました。

CERN研究所が存在し、そこで反物質研究が行われていることは事実です。 しかし、原作のように1/4グラムもの反物質を作るには、宇宙の年齢(137億年)でも足りないくらいの時間がかかります。反物質がエネルギー源となったり、凶悪な兵器となったりすることはありえません。

反物質研究は、ディラックによる陽電子の予言、アンダーソンによる陽電子の発見、セグレとチェンバレンによる反陽子の発見と、数々のノーベル賞を生 んでおり、2008年度の小林・益川両先生の理論も、宇宙になぜ反物質が存在しないかを解明する糸口となるものです。CERNにおける私たちの反物質研究 は、このような系譜に連なるものです。私自身の反物質への取り組みについては、2008年度仁科記念賞受賞ページをご覧下さい。

上巻148頁

47.「無尽蔵のエネルギー...」
反物質を作るには、まず電力を使って加速器を運転し、加速された粒子のエネルギーを物質・反物質対に転化しなければなりません。その効率は極めてひくいもので、投入した電力を回収できる見込みはゼロです。したがって、「無尽蔵のエネルギー」というのは、ありえない話です。


上巻165頁

49.「セルンの防犯システム」
CERNはとてもオープンな研究所です。世界各国から研究者が集まるばかりでなく、週末ともなると観光バスで見学ツアーもやってくる。CERNで仕事する 人のための安全教育は熱心にやっていますが、研究室からパソコンが盗まれることなどは日常茶飯。防犯レベルは高くないと思います。